インドネシアの首都移転
ジョコウィ大統領は、コロナ感染問題に直面しながらも首都移転を引続き推進することを明言。
あるマレーシアの知人から、インドネシアの首都移転先と決まった東カリマンタン州のバリックパパン、サマリンダ周辺地域の今後の発展性について聞かれた。東カリマンタン州のバリックパパン、サマリンダには、何度も商用で訪問した経験がある。
昨年、8月にインドネシア政府は、東カリマンタン州のバリックパパンーサマリンダを結ぶ丘陵地に首都移転をすることを決定した。
先日、ジョコウィ大統領が、このコロナ騒ぎの中でも首都移転については、計画通り推進することを明言しているので、確かに計画は進展するのだろう。
2024年に、ジョコウィ大統領は、任期が終了するので、それまでに、ある程度計画を実現させ、大統領として、歴史に名を残したいところだ。
マレーシアの場合は、私が、現在住んでいるプトゥラジャヤに首都機能を移転させているが、あくまでも首都はクアラルンプールだ。
一方、インドネシアの場合は、全く外島への移転なので、本格的な首都移転だ。
ジャカルタからバリックパパン、サマリンダへは空路で2時間の距離がある。
この様な遠隔地への移転は、これまで世界でもほとんど例がないのではないかと思う。
首都移転の主な理由
1.ジャカルタの深刻な地盤沈下。
ジャカルタは、毎年のように雨季になると深刻な洪水に見舞われる。
これは、地盤沈下によるところが多いためだが、ジャカルタは水道インフラがほとんど発達しておらず、殆どの住宅、アパート、ビルが、長年にわたり、地下水のくみ上げに頼ってきた。
2.ジャカルタの深刻な交通渋滞
ジャカルタ及び周辺地域の交通渋滞はすさまじい。
主な、官公庁、民間企業の本部はジャカルタ市内に集中しており、そこに通う従業員の交通手段は、自動車、バス、バイクだ。
やっと、昨年、インドネシア初の地下鉄が開通したが、開通区間が一路線のみで、計画の半分が終わったところだ。渋滞を解決するのにはほど遠い。
3.過密な人口集中
ジャカルタとその周辺都市を含む首都圏人口は、3000万人を越え世界有数の人口過密地域だ。
現地へ行ったことのある人ならわかると思うが、立錐の余地なく家屋が立ち並んでおり、拡張の余地がない。
4.ジャワ島とそれ以外の地域の経済格差の是正
インドネシアは、ジャワ島に人口とGDPの約60%が集中しており、ジャワ島とジャワ島以外の地域の経済格差が激しい。
一極集中の是正が、国家としての大きな課題だ。
新首都は、東カリマンタン州の州都サマリンダと港湾都市バリックパパンを結ぶ地域。
東カリマンタン州の主な都市は、州都サマリンダと港湾都市のバリックパパンだ。
両都市は、昨年、カリマンタン初の高速道路の一部が開通し、全区間開通すれば自動車で1時間の距離になる。
この地域は、天然資源が豊富で、木材、鉱物、石油製品等を産出、輸出基地となっている。
地理的にも、インドネシア全体から見た場合、ほぼ中央に位置し、地盤が強固で災害の被害も非常に少ない。
バリックパパンは、一般的には、あまり知られていないが、人口70万人を擁する近代都市だ。
インドネシア国営石油会社プルタミナの石油基地として発展しており、プルタミナからの税収入のおかげだと思うが、市内は非常に整備されており、シンガポールやマレーシアの都市のように近代的な印象がある。
最初に、この地域を訪問したのは、6年ほど前に、商用で石炭の採掘現場へを見学に行った時だった。
バリックパパン港のフェリー乗り場からボートに乗り換え、川を上流へのぼり、石炭の露天掘りを見た。
その地域は、良質な石炭がほぼ地表近くに埋蔵されていたので、あちらこちらに石炭層が露出おり、とても新鮮な経験だった。
一方、サマリンダは、カリマンタン州の州都で、カリマンタン最大の都市で人口は80万人を超えている。
古くから、石炭、木材の積み出し地としてマハカム川河口に発展した町だ。
ただし、マハカム河口の限られた平地に、市街地がひしめきあっており、拡張性が限定されている。
近代的な装いのバリックパパンに比べ、都市開発は、相当に遅れている印象だ。
2011年に発生した、市外から市内へ入るマハカム川を渡る橋の崩落事故は、インドネシア人の間では、今でも心に残る痛ましい事件だ。しかも、この事故のちょうど2か月ぐらい前に、私自身、サマリンダ訪問時に、この橋を渡ったところだったので、今でも忘れられない事故だ。
周辺地域のインフラ整備が着々と進む。
私が、最後に、この地域を訪問してから既に3年程度になる。当時、サマリンダへ行くには、空港のあるバリックパパンから、3時間ぐらいかけて山道を車で飛ばしていくしか方法しかなかった。
当時は、サマリンダの空港は、普通のジェット機は着陸できない小さな空港で、将来的に、拡張する可能性があるといった程度であった。
ところが、東カリマンタン州政府の予算で、拡張工事が急ピッチで進み、昨年10月、新空港がオープンした。既に、ジャカルタから直行便が飛び始めており、そのスピード感には、目をはるものがある。
また、海上輸送についても、バリックパパン港は、インドネシア政府の”海洋ハイウエイ構想”の中で、ジャカルタ、バリックパパン間を海上輸送の近代化のモデルルートとして開発される計画が決まっているそうだ。
サマリンダ、バリックパパンの両国際空港、あわせて、カリマンタン初の高速道路の全面開通、バリックパパン港の整備が進めば、この地域の物流は飛躍的に向上する。
日系企業も大手商社をはじめ、中堅企業もすでにこの地域への投資を検討しており、インドネシアの中では、注目度の高い地域であることは、間違いない。